労働分配率とは何か
労働分配率をざっくりと説明すれば、付加価値に占める人件費の割合のことです。労働分配率を知るには、「付加価値」と「人件費」を理解する必要があります。ここでは、付加価値について説明していきます。
付加価値とは何か
付加価値を知るために、つぎの例を考えてみましょう。
[例] 商品を800円で仕入れ、1,000円で売った。
この例は、仕入業者から800円で買った商品を会社が新たに200円の価値を付け加えて1,000円でお客さんに売った、と考えることができます。
つまり、仕入商品800円+新たな価値200円=売価1,000円
と考えるのです。
この会社が生みだした新たな価値が、「付加(ふか)価値(かち)」です。付加価値とは、会社が新たに生み出した「付(つ)け加(く)えた価値(かち)」というわけです。会計用語でいう「粗(あら)利益(りえき)」と同じと考えてください。非常におおざっぱな説明になりますが、売上高から仕入高を差し引いた残高が、「付加価値」と考えてよいでしょう。付加価値=粗利益というわけです。
付加価値(粗利益)=売上高-仕入高
労働分配率を計算する
すでに説明したとおり、労働分配率とは「付加価値」に占める「人件費」割合です。これによって、会社に占める適正な人件費を検討することができます。つまり、売上高と人件費を単純に比較するのではなく、付加価値という「利益」をつかって、合理的に人件費を考えようという会計データです。
労働分配率の計算式は、つぎのとおりです。
労働分配率(%)=(人件費÷付加価値額)×100
つぎのB社のデータを使って、労働分配率を計算してみましょう。 (単位;万円)
付加価値 10,000 給 与 6,000
法定福利費 600 厚生費 200
人件費の総額は、給与・法定福利費・厚生費をすべて加えた総額ですから、つぎのようになります。
人件費総額6,800= 6,000 + 600 + 200
したがって、人件費総額は6,800万円になります。B社の労働分配率はつぎのようになります。
労働分配率 68(%)=(6,800÷10,000)×100
労働分配率が、理解できたところで、[表2]に新たに仕入高と付加価値を加えます。そして、労働分配率を計算してみていきましょう。それが、[表3]です。
人件費を考えるうえで、わかりやすくするために[表2][表3]を比較してみましょう。
[表2] [単位:%]
総額 | 東北 | 関東 | 九州 | |
売上高 | 100 | 20 | 60 | 20 |
人件費 | 100 | 10 | 70 | 20 |
[表3] [単位:千円]
総額 | 東北 | 関東 | 九州 | |
売上高 | 1,500,000 | 300,000 | 900,000 | 300,000 |
仕入高 | 1,350,000 | 260,000 | 820,000 | 270,000 |
付加価値 | 150,000 | 40,000 | 80,000 | 30,000 |
人件費 | 100,000 | 10,000 | 70,000 | 20,000 |
労働分配率(%) | 66.6 | 25 | 87.5 | 66.6 |
まず、A社全体の労働分配率が、66.6%です。この数字を基準に各営業所の労働分配率をみていきましょう。東北営業所は、25%と会社の基準を大きく下回っています。一方で、関東営業所は、87.5%と基準を大きく上回っています。九州営業所は、基準と同じ数字です。
東北営業所の会社全体に占める売上高は、[表2]でわかるとおり20%です。しかし、人件費は、会社全体に占める10%に過ぎません。さらに労働分配率も大幅に会社の基準を下回っています。
このように人件費データを総合的に判断すると東北営業所の人件費は、少ないといえそうです。人件費を増やすべきでしょう。つまり、東北営業所に勤める社員の給与や賞与を増額すべきです。
同じ要領で、関東営業所をみていきましょう。関東営業所の会社全体に占める売上高は、[表2]から60%です。人件費は、会社全体に占める70%です。労働分配率は、大幅に会社の基準を上回る87.5%です。
関東営業所の人件費は、東北営業所と比較すると、全社のバランスを考えたとき、やや多いようです。関東営業所に勤める社員の給与や賞与を見直すべきです。
労働分配率と社員のモラール
労働分配率は、社員のモラール(勤労意欲)と経営方針についても考える必要があります。一般的に会社の業績が良ければ、給与が高くなり社員のモラールは高まります。反対に業績が悪化すれば、給与が低くなり、モラールは低下するという傾向があります。しかし、不景気にあっても定期昇給や賞与を通常通り支払う経営者も少なくありません。社員のモラール維持に努めるためです。会社は社員に支えられて成り立っている、という考えだからでしょう
また、人件費を「社員への投資」と考える経営者もいます。投資ですから、ある程度のリスクはつきものです。今はまだ、利益稼いでいない社員にもお給料という人件費を投資することで、将来は、会社に大きな利益をもたらす、という考え方です。労働分配率の見方は経営者の考え方が、複眼的にわかるデリケートな数値といえます。